今回は、山田太一ドラマ「夏の故郷」(昭和51年)から。
舞台は、岩手県の農村。親の跡を継いで農業をしている若者(たいてい長男)たちがいる。彼らには結婚のチャンスが滅多にない。これでは農業が立ち行かなくなると考えた町長や農業委員会の会長が教育長らと相談して立ち上がる。ちょうどお盆の時期だったので、上京して働いている娘たちが帰省してくるからうまくマッチングして結婚させようと奔走する物語です。
農業委員会の会長役は佐野浅夫さんで、自分の娘(竹下景子さん)は農家に嫁がせたくないのだが、立場上そうも言えずに葛藤を抱えたまま若者たちを励ます、という微妙な役柄を見事に演じています。
この美しいドラマのシナリオを久しぶりに読み返して(本筋から若干外れますが)2点ほど注目しました。
一つ目は、地方の衰退や人口減少といった社会問題が昔からあったということ。東京は昔から若者たちを吸収してきたと改めて認識させられました。
二つ目は、とは言え当時はまだ、長男は「家」から離れなかったということ。親も長男もそれをごく当たり前と認識し、疑問さえ感じずに生活していたということです。
ふり返って、令和4年の今はどうか。少子化で長男しかいない地方の家庭で、農家でも商店でもそれを子どもに継がせるなんてはなから考えていないという空気を私は感じるのです。
以前、自分の子どもについて故郷に戻ってきてほしいかというアンケートを親に実施したところ、苦しい親心が浮彫りになりました。自分たちの世代まではここで暮らしてきたが、子どもたちはもう帰らなくていい。彼らには彼らの夢を追いかけてほしい、というものでした。
そして、しばしば聞こえてきたのが「この町には働く場所がないし」というものでした。
続きは来月号で。