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星新一の「ショートショート」から考える(広報しもだ 2022.10月号より)

星新一の短編小説の一つに「おーいでてこーい」がある。台風のあと、直径1m程の穴が見つかる。とても深そうで「おーいでてこーい」と叫んだが何の反応もない。石を投げても、反響がない。みんな不思議がる。なんだろうこの穴は。そこに業者が現れて、買い取りを申し出る。そして、その穴にいろんな物が捨てられる。原子炉のカス(原文ママ)、実験動物の死体、昔の恋人の写真などなど。すべてのゴミが消えきれいになったある日、空に向かってビルを建てている工事現場で作業員が「おーいでてこーい」と叫ぶ声を聞く。しかし、声のあった上の方を見上げても青空が広がるだけ。気のせいかと思って作業に戻った男のわきをかすめて小さな石ころが空から落ちてくるが彼はそれには気づかなかった。という所で話はおしまいである。

ずいぶん昔に読んだのだが私は妙に気になったことを覚えている。そして、今下田市を含む賀茂地域でゴミ処理をどうするべきか考える中、この話を思い出したのだ。どんなゴミも飲み込んでくれる魔法の穴。そんなものは存在しない。一方、私たちの生活は、多種多様な工業製品に囲まれている。金だらいをもって、自転車のとうふ屋さんに「一丁ください」と言っていたあの頃からわずか50年の間に、私たちは便利で快適な暮らしを手に入れた。ボタンを押すだけで暖かい空気や冷たい風を出してくれるエアコン。お皿を回してチンといえば温かくておいしい料理も食べられる。しかし、こうした暮らしは本当にサステナブル(SDGsの始めのSはこの頭文字)、つまり持続可能だろうか。私たちは、あの町の住人と同じように不都合なところから目を背け、気づかないふりをしていないだろうか。

大切なのは、一人ひとりが暮らし方をどう変えるのかであり、地球の上に生きる私たちは今まさに岐路に立っていると思うのである。

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