今回はまだまさしの曲「8つ目の青春」(昭和60年)のお話です。歌詞が味わい深いので。
「ぼく(主人公)」は「先輩」を尊敬している。何度女の子にふられてもそれを勇気とエネルギーに変えて立ち直るからだ。ただ、先輩はふられるたびにクルマを大きくするという妙な癖がある。最初はバイク、次が乗用車と少しずつ大きくなって、7つ失恋した今は2トン車に乗っている。
先輩は、ふられると必ず東名の用賀インターにぼくを呼び出しては傷心旅行につきあわせる。でも、無口で照れ屋で、涙もろくてまぬけだけど強くて優しい先輩がぼくは大好きだし、そんな彼の魅力に気づかない「女たちはバカか?」と不思議だ。そんな先輩が8つ目の恋をした。
今度こそうまく行きますようにとぼくはひたすら祈っていたのに、半年経たずにいつもの場所に呼び出される。午前5時の用賀インター。旅仕度して待っていると、朝霧の中現れたのは4トン車。あー、やっぱりと肩を落とすぼく。
しかしよく見ると助手席にはなんと8つ目の青春が乗っている。わぁっと大喜びするぼくに、先輩は頭かきかきちょっと行ってくるからよと彼女と高速に乗っていく。
最後の歌詞は特に美しい。
ぼくがバンザイと叫んで「4トン車の背中にキッスを投げて振り向けばほんの少し寂しそうなぼくの荷物越しに蒲田方面から朝の陽射し♪」
先輩想いのぼくの優しさに加え、作者(さだまさし)のぼく(つまり私たちすべての人々)への優しさが朝日に例えて歌われ、私はつい泣けてしまうのだ。
今、スマホや働き方改革などで人と人との関係が希薄になっている。しかし、この曲のように日常の人と人の関わりが社会というものであり、その中に様々な喜びや悲しみがあるのだと思う。そして私たち大人は、優しくて希望のある地域社会をちゃんと作らなくては、と思うのだ。