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故郷を考える – 完結編(2022.9月号より)

これまで地方のまちの課題について考えてきて、今回はついにその結論、完結編です。

「このまちには魅力的な仕事がない」。これは多くの地方に共通する今日的な課題です。もちろん、中にはそんなことはないと言う人もいます。素晴らしい自然環境を生かした新しい仕事を自分たちで考えて移住してくる人も少なくありません。また、これからはリモートワークなど働き方が多様化して「魅力的な」仕事も増え、さらには地方での起業を後押しする政策も次々に打ち出されています。こうした社会的潮流をとらえ、市として様々なチャレンジを進めていきたいと思います。

その上で実はもう一つ大事なものを忘れてはいけないと思います。そこでもう一度、ドラマ「夏の故郷」に戻りましょう。東北の農家の青年たちのリーダー役の峰竜太さんが正子(竹下景子さん)に告白するシーン。彼が言う。俺は農業が好きだ。蒔いた種が一斉に芽を出すと感動する、と。しかし、正子の母に阻まれ、正子の方も少し気持ちが傾いたところへ父親から、東京に帰って冷静に考えろと諭されるなど結局うまくいきません。また、正子の兄は、東京で心身を壊して戻ってきた昔の恋人に優しく、ついには反対を押し切り結婚を決めるなど、どうもちぐはぐです。

しかし、作者の山田太一はラストに彼らへやさしい眼差しを送ります。それは、正子が東京へ帰る電車の中、窓の外を眺めながらの独白です。

「お父さん、お母さん、いろんなことがあったお盆でした。お父さんたちの思い通りになったことは一つもなかったのかもしれませんね。でも、みんなとても一所懸命だったと思います。(中略)いい夏でした。こんないい夏をすごせた故郷を私は誇りに思います。お正月にはきっと勤めをやめて帰るつもりです。小姑が帰ったら兄ちゃん迷惑かな?フフ、フフ、フフ」

出典:山田太一「夏の故郷」大和書房

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